ネタバレ入ります。








今巻は最終章が全部持ってった。
持ってった。持ってってしまった…
死ぬかよ…まさか死なすかよ…
ナルサスを死なすかよ…アルフリードを死なすかよ…
十六翼将がそろってから続々と主要人物が死んでいったけど、今回は極めつけだな。
田中芳樹さんがヤン提督を途中退場させた人だというのを忘れていた…


もちろん他にも重要人物はいるけど、
「アルスラーン戦記」において、
アルスラーン、ダリューン、ナルサスは「最重要人物」と言っていい三人だ。
それに加えて「最重要人物」とほぼ同等のキャラは、
やはりアルスラーンがアンドラゴラス王に事実上追放されたとき駆けつけてくれた、
ダリューン、ナルサス以外の五人。
ファランギース、ギーヴ、アルフリード、エラム、ジャスワントだろう。
ジャスワントはシンドゥラ遠征後に参加だからやや弱いかもしれないが、
この七人はやはり特別で、他の十六翼将には悪いが、
彼らが死ぬのは読んでるこっちも精神的な打撃が強すぎるよ。
角川文庫の頃から20年以上つきあいがあり、
いずれアルフリードが押し切ってナルサスと一緒になり、
その後も幸せに暮らしましたというのを無意識に想像してただけに、さらにキツい。


ナルサスがアルフリードを受け入れたり、
ファランギースがアルフリードの身の上に不吉さを覚えていたり、
アルフリードがゾット族族長として最後の仕事だと強調してたり、
さらに「この戦いが終わったら結婚式を挙げるんだ…」みたいな文章があったりと、
死亡フラグが立ちまくっていたから、読み進めつつ不安にはなっていた。
でも田中芳樹さんの場合、そういうのを「はずす」のも結構あるから、
もしかしたら平気かな…と思ってたりもしたんだけど…


そして実は読みながら、アルフリードはヤバそうと感じてはいたんですが、
ナルサスはヒルメスに斬殺されるまで、死ぬとは思っていなかったんですよ。
アルフリードがナルサスをかばって死んでしまう…というパターンかとも思っていたので。
だから210Pから211Pにかけて
「へぼ画家の屍体」とか「ナルサスを殺した」とか「夫の遺体」などの直接的な言葉が出てきて、
はじめて「え? あ? え、ナルサス死んだの?!」と愕然とした次第でして。


そしてナルサスが死んだなら逆にアルフリードは助かるかも…とも思ったんですが、
そうは問屋が卸さなかったなあ…
ありがちではありますが、
アルフリードがナルサスの子供を身ごもっていて…みたいなのも一瞬考えたんですが…


それにしても突発的に殺すなあ…
ヒルメスはこれまで、ナルサスにやられっぱなしで、
前巻はナルサスが絡まなかったのに大転落しちゃっていいとこなしの大連発だっただけに、
今回は大望を果たさせてあげたというところかもしれん。
作中時間では5年、現実時間では20年以上もかけて積み重なった恨みつらみが果たされたわけだ。
それは大慶、おめでとう、というところだけど
、ヒルメス自身が大喜びからあっという間に空しさを覚えはじめていて、
結局ホントに誰も喜ばない結果になっちゃったな。
ラジェンドラもナルサスは苦手にしてたけど、
「死んで万歳」にはなりそうにない性格だからね。
一番喜んでるのはあの世のシャガードかな(苦笑い)。
でもナルサスのいないあの世で知恵者っぷりを満喫していたら、
すぐにナルサスがやってきてその座から蹴り落とされて、
結局ナルサスの下風に立つ生前と死後を過ごすんだろう(苦笑い)。


まだ悲哀が強すぎて頭で考えるところまでいっていないけど、
それでもこれから先どうなるのか。
残りあと一巻とはいえ、パルス軍、というより「アルスラーン軍」は、
これまでナルサスがいたからこそ全戦全勝だったのは明らかだ。
ナルサス最初の一敗が最後の一敗になっちゃったわけだけど、
これから誰が軍師、参謀長をやるのか。
エラムが急成長するのか。
ナルサスがいろいろ書き物をしていたから、それに沿って軍略を進めていくのか。

ただ実は最近、ナルサスは目立った戦功は挙げていないんだよな。
「ペシャワール城放棄」はナルサスらしい奇略だったけど、
それすらも王都から動かないでおこなえるもので、前線には出てきてなかったからね。
だからって何もしていないわけではなく、
全体的、総体的にいろいろ見て、考えて、様々な準備をおこなっていたんじゃないかと思う。
それが残した書き物に記されていたり、
記されていなくてもここぞの時に役立ったりするのかもしれない。
死してなおパルス軍を操り「ザッハーク打倒」を置き土産として
パルスでの最後の仕事とするのかもしれないな。


ただナルサス個人にとっては、本望だったかもしれない。
なにしろ宰相にはならず、望んだ「宮廷画家」として死ねたんだからね。
ナルサスの絵も、芸術的価値はともかく、歴史的価値は天上知らずのものになるだろう。
そこは本人は望まないかもしれないが(苦笑い)。


アルフリードも、アルスラーンが「よかった、アルフリード、よかったな」と声をかけたのがすべてだ。
読者もみんな、そう思っただろう。
「せめてものこと」でしかないとしても、
せめてものことすらなかったのに比べれば、本当に、本当に、よかった。


しかしこうなってくると、ホント、ダンバインやイデオンになりかねなくて怖いよ。


アルスラーンやエラムの衝撃は当然だとしても、
ダリューンがここまでダメージを受けたのを見るのも初めてだ。
そして父に続いて妹を殺されたメルレイン。
ヒルメスはとんでもない二人から命を狙われることになった。


それにしてもヒルメスも、ちょっと狂気をはらんできた気がするな。
わかりやすい狂気というのではなく、
なんというか、これまでのヒルメスはなんだかんだで
将来的な展望をもって政略や軍略をおこなってきていたけど、
今回はそれが見えない。
マルヤム軍を動かしてパルスに攻め込んだとて征服などできるはずもなく、
ただ混乱させるのが関の山と、
作中の登場人物の誰もがわかっていることなのに、ヒルメスは強行した。
今回はナルサス殺害という大戦果を得られたけど、
それだって偶然が重なっての幸運でしかないからな。
「パルス征服」が最終目的でなく
「どいつもこいつも不幸にしてやる」ことだけが目的だとすれば、
これは立派に狂っていると言えるだろう。
…知らずのうちに「尊師」を介してザッハークに影響されてるかな?


「尊師」といえば、アンドラゴラス=ザッハークが思わせぶりなことを言っていたな。
ザッハークの「旧知」といえば、それこそ封印される前、三百年以上前の者になるだろうけど、
その頃の人で登場人物や読者が驚くような人といえば…英雄王?(!)
あるいは聖賢王?(!)
いやいや、そう「単純」ではないかな。
なんにせよ、それこそ最初期から出ている「尊師」。
ここにきていきなり前面に出てきたな。


しかしこれだけ事があると、ザッハークが完全復活したってのが霞むな(苦笑い)。
充分大事なんだけどな(苦笑い)。


バリパダも意外とあっさり退場したな(笑)。
再登場はあるかもしれないけど、一騎でパルスへ亡命しようとするシーンは、
田中芳樹さんが昔書かれた中編「長江落日賦」を思い出すな。
古代中国・南北朝時代、北朝の魏から南朝の梁へ亡命する侯景という武将のお話。


それとゾットの黒旗が地面に落ちそうになるのを
アルフリードが馬上からすくい上げるシーンは、
同じく田中芳樹さんが昔著された「マヴァール年代記」のアンジェリナ姫を思い出した。
アンジェリナがすくい上げたのは「黒羊(カーラヒルプ)公国旗」で、
すくい上げた後は攻勢に入って敵軍を押し始めたから、
パルス軍もそうなるかもって思ったんだけどねえ…


あとアニメがこの後もずーっと続いて、最終巻までアニメ化されるとすれば、
女官のアイーシャの声は中村繪里子さんしかないと思った。
だってアイーシャの一番の特徴が
「何もない場所でつまづく名人」となれば、それ以外考えられないでしょう(笑)。

しかしアイーシャはなんだかんだでアルスラーンの子を産むかなと思ってたんだけど、
エラムの方だとは思わなかった(笑)。


それにしてもこれから始まるアニメ二期は、観ててもいろいろ複雑な気持ちになるだろうな。
ここからまだまだナルサスの知謀は冴え渡り、
ルシタニアだけでなく、四方八方の国々を手玉に取っていくんだから…



田中 芳樹
光文社
2016-05-18







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