ようやく塩野七生さん著「ギリシア人の物語」全三巻を読み終えました。
そしたら巻末に、歴史エッセイはもうおしまいということが書かれていて、「そうかあ」という納得とともに感謝や寂しさも湧いてきています。


塩野七生さんは1960年代後半から、「ローマ人の物語」「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」等、主に古代からルネサンスにかけてのイタリアを中心としたヨーロッパ・地中海地方の歴史を題材に著作を重ねてこられた作家さんです。
ぼくは歴史好きではあっても、基本的に中国史に集中していたんですが、ヨーロッパに興味がいったとき、ちょっとしたきっかけがあって塩野さんの著書と出逢い、それ以来かなり読み倒しております(笑)。


ご自身で「歴史エッセイ」とおっしゃってるように、歴史書でもなければ歴史小説でもありません。
実際に起こったことを、ご自分の言葉でわかりやすく著述して、ご自身の考えや感想を加えて文章を連ねてらっしゃいます。


塩野さんは学者ではないので、考察も考証による事実だけではなく、ご本人の感想を思いつくままに書かれているところもあり、そのことで批判する人もちょいちょい見かけますが、そこはすでに「私は学者ではなく作家なのでかなり好き勝手書いてます」というようなことをご自身が最初からおっしゃっており(だから著書名も「ローマ人の物語」「十字軍物語」等「物語」とつけてらっしゃるものも多い)、そこをしたり顔でツッコむのは「ネタバレしてます」と断ってる感想ブログに「ネタバレはいけないと思います」とツッコむのと同様の恥ずかしさがあるとぼくは感じています(苦笑い)。


そして塩野さんの偉大さは、その部分にこそあるともぼくは思っています。
ぶっちゃけていうと、学者さんの書く歴史書は、きっちりと事実と考証を重ねてのものであり、正確性や誠実さは信頼をおけるものですが、いかんせんそれだけに読みにくいものが多い(苦笑い)。
また文章も読みやすさより正確性を重視するため、くどくなる傾向もあり、専門家でもなければかなり気合いを入れないと読みこなせない。
ぼくも学者さんが書く本を読むときは、気合いを入れて読んでます(苦笑い)。


そのあたり、塩野さんの文章はすっきりしているし、盛り上げにも配慮をしてくれていて、いち読者としてすごく読みやすくておもしろい。
それでいて「この人がどうしてこういうことをしたか」など内面や裏面に関する考察はともかく、「何が起こったか」という歴史上の事実を改ざんするようなことはない。


これだと歴史書のように難解で頭に入ってこなかったり、教科書や年表をただ眺めてるだけでは記憶に残りにくいような歴史的事実や事件が、すっと自分の中に落とし込めるんですよね。
もちろん全部を完全に記憶するなんて無理ですが、流れはわかるし、あとで思い出しやすくもなる。


要するにその国や地域の歴史への導入作としてはもってこいってことなんです。
塩野さんの作品を読んでだいたいの流れをつかんでから、他の本を読んだり調べたりして、自分なりの歴史観や考察を作っていける。
たぶん日本におけるイタリア・地中海地方の歴史への導入部としては、中国史における吉川英治さんの小説「三国志」や横山光輝さんのマンガ「三国志」に匹敵するくらいの貢献度があるんじゃないかな。


その塩野七生さんが、ご自身のライフワークに近いところがあったであろう歴史エッセイを終わらせるという。
イタリアどころか古代ギリシアまで書ききって、もう書くこともないというのもあるでしょうし(苦笑い)、またこれだけのものを書き続けるには年齢的に難しいというのもあるでしょう。
だからぼくも寂しさは感じつつも納得しているし、なにより感謝をしています。
本当にありがとうございます。


とはいえ歴史エッセイを終わらせるだけで、まだまだ作家活動は続けられるでしょうし、ぼくもこれまで発表された作品をこれからも何度も読み返すでしょうから、まだまだよろしくお願いしますというところですが(笑)。


ただちょっと申し訳ないなと思うのは、塩野さん、「ギリシア人の物語」三巻末で、「これまで歴史エッセイを出版し続けてこられたのは、読者が購入してくれたからです、感謝します」というようなことを書かれていたんですが、ぼくは「ローマ人の物語」の文庫本全巻だけしか買ってないので、そう言われると赤面しつつ「すいません」と謝ることしかできないのですが(苦笑い)。


何にせよ、もう一度感謝を。
どうもありがとうございました。