石川直宏選手 現役引退のお知らせ
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2002年、前年ワールドユースで活躍したけどマリノスでは出場機会がなかったナオが、
当時FC東京の監督だった原(博実)さんの
「うちに来たらすぐ使っちゃうよ」という口説き文句でレンタル移籍してきたのが東京での出会いだったな。
移籍してきて3日か4日後、
ナビスコカップで本当にすぐに使っちゃったのは笑っちゃったが(笑)、
そのプレーにはぼくも一目惚れでした。


速い選手はたくさんいる。
でもナオのそれは「軽やか」なんですよね。
まるで大地から足が数センチ浮いている、跳ぶような疾走。
「地を這う」とも「俊足の猫科動物のような」とも違う、
鋭く切り裂く疾風のようなドリブル。


最初の頃はプレー自体が軽くて、
ちょっとつつかれたらすぐにボール取られちゃったけど、
それも徐々に改善され、ナオが前にスペースがあるときにボールを受けたら、
それだけで一気にワクワク感が強まった。
ぼくだけじゃなく、味スタ全体がそうなってた。
これはナオ自身も感じてたみたいだ。


当時、FC東京には佐藤由紀彦という不動の右サイドハーフがいた。
そのユキがケガをしてしまい、
ナオの移籍は彼の抜けた穴を埋めるための補強でもあったんだけど、
そのままユキからポジションを奪ってしまい、
結局ユキがマリノスに移って、結果トレードというエピソードもある(苦笑い)。
ぼくとしては「ユキ右、ナオ左」という布陣が理想だったんだけど(ナオのプレースタイルなら左もいけたかなと)、結局それは夢のまま終わった。
いや、実は2002年の仙台戦で、ほんの短い時間だけあったんですよね。
あれはワクワクもんだったんだけどなあ。


ナオといえば2009年のチート状態・確変状態も忘れられない。
とにかくとんでもない得点力だった。
印象としては1試合に必ず1点は取ってくれるような。
この年ホーム清水戦での右足アウトサイドのミドルシュートをナオのベストゴールに挙げる人も少なくないんじゃないだろうか。
MFで得点王というのもあながち冗談じゃないペースだったし、
もしそうなら東京初のリーグ優勝も視界に入ってたと思うんだけど…


清水戦といえば、2003年アウェイでの2得点もすごかった。
特に先制点。
左サイドでボールを受けたナオがトラップで相手のチェックをかわし、
そのまま反転、ダイレクトボレーで得点って、
「なんじゃそりゃ!」と観てたこっちも驚いたよ(笑)。


笑顔もさわやか、プレーも軽やか。
だけどそんなナオだけを見てるととてものことイメージできない、
「想像を絶する」と言っていいほどの苦難ばかりのサッカー人生だったのも確かだ。
そしてそれ以上に、顔に似合わぬ不屈の精神の持ち主だった。


本当に何回あった!?
今の状態なら代表に選ばれて定着することだって夢じゃない!
海外移籍だって必ずオファーがある!
ってところで必ず大ケガに見舞われるって!
必ず定着したとは言わない。必ず海外で成功したとも言わない。
でもそのチャンスまであとちょっとというところで潰されるって、
サッカーの神様がいるとしたら、あまりに無情だとつくづく思ったよ。


2009年のときも忘れられない。
ホームレイソル戦、4点目をまさにナオが取った瞬間、相手と交錯して足を負傷…
あの瞬間、味スタが静まりかえったものな。
相手がわざとじゃないのはわかるから、そこは全然気にしていないんだけど、
立つこともできず痛そうに膝を抑えつづけていたナオのケガが重傷だってのは、
スタンドから見ただけでも明らかだった。


あのシーズン、ナオを失うのがどういうことか全員がわかっていたし、
なによりタンカに乗って去っていくナオの心情をおもんぱかれば、
大勝(4-0)で試合が終わっても、喜びはほとんどなかった。
勝ったのに通夜のような気分で帰途についたのは、今のところあのときだけだよ。


ナオのあのスピードに、
特に膝がついていけなかったのがケガの多い理由だったかもしれない。
それでもやはり、どうしても思ってしまう。
ケガさえなければ…


もっともナオ自身は、
ケガも不遇も不運もすべて含めて「成長の糧」と受け入れているようだ。
そこはもう、本当にそうなのだろう。
だったらもう、こっちだってケガのことも何も言わないさ。


ナオがこれからどうするのかはまだわからない。
ナオ自身も具体的には考えていないかもしれない。
今はとにかく、今シーズン、全力でチームに尽くすだけだ。
ぼくは今、偉そうに東京を応援してるとかチームのために尽くしてるとは言えないけど、
でもナオに殉じる気持ちはありますよ。


ナオはまだ「選手」として戦ってる。
だからまだお疲れさまは言わない。
言うのは今年が終わってからだ。
今はナオと一緒に戦うだけだ。