サクラと紅茶

日常のことを書いていきます。 物書き志望でもあります。 第2回富士見ラノベ文芸賞 一次選考通過

タグ:黒猫の駅長さん







まんがくらぶで連載していた「黒猫の駅長さん」がこの前おわった。
実は存在を知ったのは最近だったから、かなり残念な気分です。
このあとはネタバレと、思いつくままの感想で支離滅裂なところがあります(照)。


一日平均乗客数が一人以下(つまりほぼゼロ人)の秘境駅。
無人駅だけど駅長はいる。
黒猫。ただしただの猫ではなく、化け猫。
年齢ははっきりしないが、
駅舎が建つ70年以上前の記憶があり、戦争体験もあります。
見た目も普通の猫だけど、見える人には「もう一本の尻尾」も見える。
人語を解し、文字も読むことができ、ネットすら使いこなす(笑)。
そんな駅に、霊感があって駅長の正体を見抜いた高校生の佐々木美琴が通学のため定期利用者になり…


というような、いわゆるハートウォーミング系四コマになりますが、
個人的にとてもお気に入りになりました。


最近はブームも去りつつあるけど、「けいおん!」を筆頭に、
日常ゆるふわ系のマンガやアニメがかなりあった。
だけどそういう作品でも、
やっぱりところどころ味付けは濃いめにしてはあるんですよね。
キャラクターデザインが強く萌え系だったり、
性格や設定に突飛なものがあったり。


それが「黒猫の駅長さん」では、かなり薄めの味付けなんですよ。
もちろん化け猫とか霊感とかは突飛な設定ではありますが、
特に強く前面に押し出されてるわけではない。
これをベースに、ちょっと不思議だけど穏やかな世界を描いてくれてるんですね。


登場人物は主にこの二人だけ。
二人ともアグレッシブなタイプでもないので、
ほとんど駅での会話だけでお話が進んでゆく。
事件もそれなりに起こるけど、派手な行動などはなく、
いつの間にか自然に収まっていることも多い。
そういう静かな世界観がお気に入りだったんですよ。


かといって、ただ淡々とした展開に終始しているわけではない。
むしろ重いテーマも扱っている。
美琴はもともと東京に住んでいて、この駅近くにある集落がルーツになります。
引っ越してきた家ももともとは美琴の曾祖母が住んでいた家で、
ある事情があり、美琴はここに越してきました。


その理由というのが、あの地震。
美琴のお母さんはあの津波に巻き込まれて行方不明になり、
遺体も見つかっていない状況だったんです。
この「遺体が見つかっていない」というのが、
彼女と、彼女の父親を苦しめています。


美琴の父親は大きな企業の経営者で、
最初はあまり出てきませんが、自分の故郷への引っ越しを決めた人です。
津波後は、娘を励まして必死になって妻を捜していましたが、
一年を過ぎた頃、ついに断念してしまいます。
これはもう、いろいろと考えれば非難できることではないんですが、
美琴としては納得できない。
これまで「お母さんは生きている」と一緒になって捜してきたのに。


さらに美琴にとって納得しがたいことに、
お父さんには新しい恋人ができて、婚約もしてしまったんですね。
美琴は「まだお母さんが生きてるかもしれないのに」という想いも強く、
お父さんとの心の隙間は大きく深くなっていきます。


そんな中、美琴は化け猫の駅長さんと出逢い、
不思議な存在である彼と徐々に仲良くなってゆきます。


また駅長さんの方も美琴に特別なものを感じます。
霊感が強く、自分の正体をすぐに見破ったというのもありますが、
実はこれは美琴が初めてではなく、
彼女の曾祖母である「多恵ばあ」が最初だったんですね。
自分の正体を知る多恵ばあとは仲がよく、様々な思い出もある。
その多恵ばあの曾孫である美琴ですから、
彼女に対して思い入れも深くなろうってもんです。


美琴にとって駅長は、とても大切な相談相手ににもなります。
お母さんのこと、お父さんのこと、お父さんの婚約者のこと。
こういうデリケートな悩みを、
他の人にはなかなか打ち明けることはできないけれど、駅長になら話せる。
駅長もそういう人の心の機微がわかる猫なので、
美琴の心に踏み込みすぎず、かといって突き放しもせず、
静かに受け入れ、受け止め、やさしく返す。
化け猫といっても普通の人間と同じようなメンタリティがあるだけなので、
真理などを美琴に伝えることはできません。
ただ受け入れ、少し自分の考えを告げ、あとは美琴自身に任せる。
それが美琴にとってどれほど心強く、救いになったことか。


またお父さんの婚約者である松山里穂さんという人も、悪い人ではない。
推定25~27歳くらいの穏やかな雰囲気の美人だけどおっとりしているところもあり、
駅長&美琴曰く「狐の類に騙されやすいタイプ」(笑)。
だけどなんと五カ国を話せる才女で、お仕事はお父さんの通訳兼秘書。
そのせいもあり、また情緒不安定な時期も重なって、
美琴は「もしかしたらお母さんがいた頃から…」という疑念を持ってしまいますが、
これは誤解だったようです。
美琴も里穂さん本人を嫌っているわけではなく、
むしろ大好きと言っていいくらいだと思います。
ただ出逢いの形というか、
関係上、いろいろわだかまりがあるのは仕方ないわけで。


里穂さんとも少しずつ関係はよくなっていきますが、
より関係が複雑なのはお父さんの方かもしれない。
お父さんは推定40代後半。背の高い壮年のイケメン。
悪い人ではないけれど、
年頃の娘相手だけにうまくコミュニケーションが取れない上に、
こんな事態になってしまって親子の間で互いにつきあい方がわからなくなってしまっている。


同じ成年男子としてお父さんの気持ちもいろいろ想像するところはあります。
美琴を見ていると、美琴のお母さんの容姿や性格もなんとなくわかる
(お父さんも「美琴は母親に似てきた」と言ってるし)。
だとすると、お父さんは本当にお母さんを愛して、
心から頼っていたんだろうなあと感じてしまいます。
仕事やその他で疲れたときだけでなく、
心の最ももろくて柔らかい部分をお母さんに預けていたんじゃないでしょうか。


そのお母さん――妻がいなくなって、
お父さんは体が半分もがれたような感覚だったかもしれない。
ある意味、美琴以上に必死になって「半身」を探したかもしれない。
だけどそれが絶望的だとわかったとき、
ふと近くに妻に劣らないほどの女性がいると知った。


ずっと独り身だったら耐えられたかもしれない。
だけどずっと女性に支えられて癒してもらってきた男からすれば、
たぶん一人で立ち続けるのは耐えられないんでしょう。
そこはもともとの性格だけでなく、
生き方や、生きてきた人生によって決まるもので、
お父さんを一様に責めるのは酷だと思います。
幸い、里穂さんの方もお父さんを男性として愛してくれたわけですが
(里穂さんも友人を同じ地震で亡くしていることも一因かもしれない)、
その辺の機微を10代で思春期の美琴にわかれというのも、また酷な話。
美琴にとってお父さんは生まれたときから「お父さん」で、
男としてのお父さんの弱さまでは、まだわからないだろうから。


だけどそれらの親子関係も、
駅長さんと過ごすことで少しずつ変わってきた美琴のおかげか、
徐々に改善されつつあります。
おそらく5年後、10年後には、普通に仲良くやれていることでしょう。


いろいろな問題や葛藤を内包したまま、
でも基本はのんびりしたまま話は進み、
全三巻、作品内の時間ではわずか半年のお話で完結しています。
最終回も特に盛り上がる展開ではなく
(メイドの橘さんで少し意外なネタ晴らしがありましたが)、
日常の中、淡々と過ごしていくいつも通りの一日が描かれました。
それがこの作品らしく、いずれ続きが描かれるようなことがあれば、
そのまま自然に戻ってこられるような、そんな気もしています。


作品紹介だか感想だかわからない日記になってしまいましたが、
なんにせよお気に入りの作品ということです(照)。
だからちょっと欲しいなと思ってるんですが、
実は最近は、あまり本を増やしたくないという気分もありまして。
電子書籍で買ってみるのもいいかもしれないなと思ってたりもしています。
そうなれば電子書籍デビューですが(笑)、もしこれで不都合がないようなら、
これからはずっと、そっちをメインでいろいろ購入してみようかななんて思っています。


あと重要な追記として、
第38話の美琴のツインテールはツボでした。かわいい(笑)。

ネタバレ入ります。


鹿児島県・西大川。
昔は林業や金鉱山で栄えたが、今はまったくの無人集落。
JR野山線・西大川駅も一日平均乗降客一人以下の、いわゆる秘境駅。
すでに無人駅になって久しいが、人はいなくても駅長はいる。
タイトルどおりの黒猫だが、名前はなく、厳密には猫でもない。

正体は化け猫。
もともとは普通の猫だったが、
なぜか長生きして(少なくとも80年以上。太平洋戦争経験者)尻尾が二本ある化け猫になってしまった。
人語を解し、iPadを常用するほど頭脳も明晰(笑)。
掃除や線路巡回など駅業務もこなし、その他いろいろ化け猫ならではの力もあるが、
普通の人間には二本目の尻尾も見えず、会話もできない、普通の猫にすぎない。

そんなある日、一人の乗客がやってくる。
佐々木美琴というその女子高校生は不思議な力があるらしく、
駅長が普通の猫でないことをすぐに見抜き、彼と仲良くなってしまう。
さらに美琴は無人集落である西大川に父親と一緒に越してきて、
学校に通うため西大川駅を常用するということ。

こうして一日平均乗降客が「二人以下」になった西大川駅での、
駅長と美琴の不思議な関係がはじまる…


という導入部で、いわゆる四コマ系ハートフルストーリー。
でもおそらくアニメにはならないな(笑)。
美琴は素直でやさしい美少女だけど、そこまで萌え(死語?)を前面に出していないし、
動きも話の展開もゆっくりで、アニメ向きではないから。
でも個人的にはとても気に入ってしまいました(照)。


ほのぼの系といっても騒がしくはなく、しっとりした雰囲気が主で、
それでいてヘビーな要素も入っていたりして…
そのあたりまで書くとやたらと長くなるだけでなく、
読んだ限りのあらすじをすべて書きかねないからやめときます(笑)。


図書館には1~2巻が置いてあって、
今んとこ何巻まで出てるのかななんてことを考えつつ2巻の奥付を見たところ、今年発売(笑)。
四コマ系はページ数が少ないから、
単行本になるペースが週刊マンガに比べるととても遅くなってしまうのは仕方ないけどね(苦笑い)。

でもおかげでまんがくらぶ最新号を読んでみたら、ほとんど話は進んでなくて、
でも気になってたことは一つ解決したようで、安心できました(笑)。
これから毎号読んでいくかあ。


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